騎士団長のお気に召すまま

マリルの民家の路地は曲がりくねってまるで迷路のようだ。

どこの家も白い壁に橙色の屋根で、どこが誰の家だか、ここがどこだかさえも分からなくなりそうだ。

何度かここに来たことのあるレオナルドは慣れているらしくずんずん突き進んでいくのでアメリアはその後ろを歩くのに必死だった。

話を聞けば、民家への調査も今回が初めてではないのだという。

レオナルドの後ろを歩きながら、アメリアの胸は痛んだ。


これではレオナルドの付き添いに他ならない。

役に立つどころか、居ても居なくても変わらない。

役に立ちたくてここに来たのに、全然役に立っていない。

何のためにここに来ることを選んだのだろうか。


「すみません、副団長」

「なんだ、急に」

レオナルドは微笑みながら振り返る。

「私、何の役にも立っていない」

「そんなことないぞ」

「実際、役に立っていません」

しかしそれでもレオナルドは「そんなことはない」と否定するのだ。


「調査に出ると言ってくれたこと、きっと団長は嬉しかったんじゃないかな。

ほら、アメリア嬢が騎士団にいる理由が他とちょっと違うだろ?

だからきっと自分から騎士団のために動こうとしてくれたことが頼もしく思えたんじゃないかな。

少なくとも俺はそうだったよ」


「副団長…」

「だからこれ以上悩まないでいい。それにアメリア嬢はこのまま何もしないつもりもないんだろう?」

悪戯を企む子どものような笑顔を見せるレオナルドに、アメリアはつられるように笑った。