「僕の結婚について、兄上からは好きなようにすればいいと申し付けられましたので、そのお言葉に甘えて僕の思うようにしようと思います」


それから一度だけミアの名前を呼ぶ。

ミアの前で、ミアの顔を見て、ミアの名前を呼ぶのはきっとこれが最後になる。そんな雰囲気をまとった呼び方だった。


「僕はあなたとだけは結婚しません。誰に何を言われても、絶対に」


シアンは本当に踵を返した。

はっきりと告げられたその言葉にミアは呆然として座り込んでしまった。

シアンの名前を呼ぼうとも決して振り返ることはない。

まっすぐ歩き続ける彼を、アメリアとヘンディーは追いかけた。


「いやあ、あんなにはっきり言うとは思わなかった」

ククク、と思い出し笑いをするヘンディーに、シアンは不機嫌そうに「笑わないでくださいよ」と言う。

「ようやくミアと関わらなくて済みます」

肩の荷が下りたと言わんばかりにわざとらしく溜息をこぼすシアンを見て、ヘンディーとアメリアは顔を見合わせて笑った。

「アクレイド家とミルフォード家のつながりを提言しておいたので、ミアが直接ミルフォード家を襲うようなことはまずしないと考えてよいでしょう」


何でもないことのようにシアンは言うが、アメリアひいてはミルフォード家にとっては本当にありがたいことだ。

子爵家のミルフォードにとってキャンベル伯爵家は格上の存在。抗えない存在なのだ。


「ありがとうございます、助けてくださって」

「いえ、こちらこそ貴女を利用させていただきましたから」

「は、利用?」

聞き捨てならな言葉が聞こえて聞き返す。


「結婚のこと、兄上を納得させるのに貴女を利用させていただきました。いやあ、助かりましたよ。貴女のおかげで兄上に納得してもらうどころか、結婚については好きにしろとまで言ってもらえましたから」