朝、学校に着いた

早く家を出る癖があり

学校に早く着くのはいつもの事だ

早く着くと

教室はもちろん開いていない

だから

鍵をもらいに行くのが私の日課になっている

これは学年が変わっても継続されるんだな

と、少し遺憾に思う自分がいる

「鍵ないよ。誰か先に来たんじゃない?」

先生が言った

そうか、無駄足だったな

上りなれない校舎の階段は

これから起こる出来事を

警告していたのかもしれない

「……開いてない」

そんなはずはない

職員室に鍵は無いのだから

「……あ」

教室の中に鍵がある

これはまずいな

私達吹奏楽部は

3年生の各教室を使わせてもらっている

だから

戸締りや掃除はしっかりしよう

と呼びかけられた

本来の鍵を閉じ込めてしまうのは

もってのほかだ

しかも

昨日の今日だ

走って階段を駆け上がる

先生に改善点を提示して謝った

許されたかどうかは知らないが

とりあえず

複製されたあってはならない鍵を

貸してもらえた

教室を開けることは出来た

問題は

このような事が起こってしまったという

事実だ

部長に話すかどうか迷った

同じクラスということもあり

話すことを決意した

「……そっか…」

やはり言わない方がよかった

顔のパーツが

少し下がったように思えた

部長は責任感が強く

その上バカ真面目だ

昨日の事もあったから

相当責任を感じているのだろう

それが気になって

今日から始まった本格的な授業の内容は

透明なフィルターに透された

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昼食後の昼休み

昨日の事を謝りに行こうと

昨日に部長が連絡をくれた

皆集まっては来たものの

明らかに顔が歪んでいた

「これから先生を呼んでくるので、喋らないで待っていて下さい」

流石はバカ真面目な部長

しかし

部長が職員室に向かい

姿が見えなくなると

不満の声が

ポツポツと浮かび上がってきた

なんで謝らなあかんのやろ

真面目すぎるねんなぁ

ふと鋭い風が吹いた

先生が出てきた

浮かび上がっていた不満の声は

敵が来たときのチンアナゴのように

スルスルと縮んでいった

でも先生は

私達の目の前を通り過ぎて言った

ふざけるな

誰かが呟いた

視線が交差する

それと同時に

部長が職員室から出てきた

「謝ることは出来ないです。態度で示すしか無いので、これからは無駄話をせずに練習してください」

はい、と言う

胸糞の悪い返事が

部長を刺した

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部活が始まった

いつもは予定が書いてあるホワイトボードに

不自然な程に笑っているニコちゃんマークと

辛くても笑顔で!

というありきたり言葉が

書かれていた

最後の部活動体験だ

確かに

暗い雰囲気だと

1年生も入ってきてくれないだろう

私も後輩も

嫌な事は忘れようと

楽しく笑ってやり過ごした

最後のミーティングが始まった

1年生勧誘をして得た

反省点と改善点を発表する人を横目に

部長の顔色を伺った

無理に笑おうとしている

誰が見ても

疲れていると分かる顔だ

「あの」

パーカッションの方から

弱く、でも芯のある声が聞こえた

「よく先生とか部長への悪口や陰口が聞こえるんですけど、そんなに嫌なら本人に言ったらどうですか」

不満は無かったが

部長が1人で抱え込む理由が分からなかった私は

思わず反射的に腕が動く

でも

その軽はずみな行動は

次に発された言葉でピタリと止まる

「まぁ直接言ったところで、言われた人が傷付くだけですけど」

意外にも

私の心は弱いらしい

そんな自分に落胆し

結局言うことは出来なかった

ミーティングが終わると

2階の教室の戸締りがしっかりされているかを

確認しに行った

今日のような事は

もう無いようにしないと

確認して音楽室にかえると

あの芯のある声が聞こえてきた

「私さー、正直愚痴言ってる人見たことあるんだよねー。皆の前で言えないなら言うなってねw」

うわ……

私は人間の闇を見てしまった…

君も愚痴言ってるよ

自覚が無いのって怖いんだね

明日は8時半に集合がかかっている

また

あの先生に謝りに行くのかと思うと

気が病んで仕方がない