わたしと専務のナイショの話

「私が朝、教室に行こうと、一階の渡り廊下を歩いていたら、坂下が渡り廊下の柵を乗り越えようとしてたんですよ」

 ああ、その一件は覚えている、とのぞみは思った。

 遅刻しそうなので、渡り廊下の柵を乗り越えようとした。

 そこが教室への一番の近道だったからだ。

 結構みんな利用していたので、さりげなく、踏み台がわりの椅子も置いてあったりした。

 しかし、その日、のぞみが柵を乗り越えようとしたとき、ちょうど隣の校舎から京平が現れてしまった。

「なにをしている?」
と京平に訊かれた、のぞみは柵にまたがったまま答えた。

「柵を乗り越えています」

 他に言いようがなかったからだ。

「……何故、柵を乗り越える必要がある?」

「遅刻しそうだからです」

 一瞬、沈黙した京平が、
「そうか」
と言ったので、オッケーなのだろうと思い、そのまま、渡り廊下に降り、教室へと入っていた。

 その後、なにも言われることはなかった。

 だが、京平は今になって言ってくる。

「開いた口が塞がらないとはあのことですよ」