わたしと専務のナイショの話

 すすす、と行こうとすると、祐人が、いきなり、
「珈琲」
と呟いた。

 今の話の流れで、どきりとしてしまう。

 聞かれたのかと思ったのだ。

 だが、祐人は、
「珈琲、一時半に五人分、食堂に頼んでおいて取りに行って」
と言ってきた。

 あっ、はっ、はいっ、とのぞみは慌てて返事をし、また、失礼しま~す、と言って、その場を去った。

 あまり人気のない役員室の廊下に出て、ホッとする。

 重厚な古い絨毯の敷かれた此処に来ると、最初は緊張していたのだが。

 今では、社内では数少ない、安らげる場所のひとつとなっていた。

 あまり人が行き来していないからだ。

 それにしても、と渋い金色の専務室のプレートを振り返りながら、のぞみは思う。

 専務と樫山さんが和解したのなら、もう、私とは結婚しなくてもいいんじゃないだろうか?

 それとも、それとこれとは別なのかな?

 そう小首を傾げながら、のぞみは秘書室へと戻った。