わたしと専務のナイショの話

「専務、道、間違えましたよ」
とのぞみは振り返り、今来た図書館の方を見たのだが、京平は、

「いや、間違ってはいない。
 此処でお茶でもしようと思ってたんだ」
とカフェを見ながら言ってくる。

 うーむ。
 先を歩いていたのは、専務だったから、もしや、いつもの負け惜しみだろうか、と思いながら、

「でもあのー、ご飯食べに行くんですよね?
 私、お茶したら、もう食べられなくなるんですけど」
とのぞみは言った。

 先に珈琲など飲むと、お腹がちゃぽちゃぽして食べられなくなってしまうのだ。

 なのに、たっぷり食べたあとのスイーツなら幾らでも行けるのは、不思議なことだが……。

「そうか、じゃあいい。
 行こう」
と言って、さっさとカフェと図書館の間にあるエスカレーターに乗ってしまう京平が、妙に素っ気なく、

 あれ? もしかして、本当に行きたかったのかな?
とのぞみは思った。

「あっ、専務っ。
 待ってくださいっ。

 やっぱりお茶しましょうっ」
と追いかけてエスカレーターに乗ったのだが、

「いや、いい」
と言って、京平は振り返らない。