わたしと専務のナイショの話

 




「これなんかどうですか?」

「読んだ」

「これは?」

「読んだ」

「じゃ、この作者の……」

「読んだ」

「ほとんど読んでるじゃないですか、この辺のミステリー」

 しゃがんで古いハードカバーの本を指差していたのぞみは立ち上がり、祐人に言った。

「昔も結構読んではいたんだが、大学生って暇じゃないか。
 あの頃、かなり読破したぞ」

「へー。
 海外ミステリーは?」

 今、話していたのは、日本のミステリー作家のものだったので、そう訊いてみると、祐人は渋い顔をし、

「実は、ひとつ読んでいないものがある」
と言ってきた。

「シャーロックホームズだ」

 ええっ!?
と思わず声を上げてしまい、静かな図書館に響いたその声に、のぞみは慌てて自分で口許を押さえる。

「な、なんでですかっ?」