「週末、お前と旅行にでも行きたいな」
「えっ?」
専務室に行ったのぞみに、京平はそんなことを言ってきた。
最近、やたら、お茶持ってこいだの、ファイル持ってこいだのが増えたので。
少しは信頼され始めたのかな、と思っていたのに。
こんなくだらぬことを言うためだったのか?
仕事のうえでは、あまり認められていない気がして、のぞみは不満げに京平を見る。
五つの考え事が同時にできると言い張る京平は仕事をしながら、言ってきた。
「よく考えたら、うちの親には、もう挨拶したし、今週末、うちに行かなくてもいいだろう」
「いや、お母様にしかしてませんが」
とのぞみは言ったが、京平は、
「あっちはいい」
と言ってくる。
あっちとは父親のことだろうか、と思っていると、
「結婚するんだ。
ああ、そうかで終わるから別にいい」
と言ったあとで、京平は、突然、妄想を語り出す。
「お前と雪山にでも行きたいな」
何故、雪山。
そして、今、春です、専務、とのぞみは春の日差しに満ちた外を眺めた。
ぞわっと来ないよう、空だけを見つめる。



