わたしと専務のナイショの話

「ああ、家に着いたじゃないか」

 京平は闇夜にそびえるおのれのマンションを見ながら言ってきた。

「寄ってくか?」

「いえ、帰ります」
と言うと、そうだな、と京平は素直に引き下がった。

 降りかけて言ってくる。

「お前を素直に帰すのは、お前の親に嫌われたくないからだけじゃないぞ。
 お前に、嫌われたくないからだ」

 外に出た京平は助手席に手をつくと、身を乗り出し、キスしてきた。

「おやすみ。
 寄り道すんなよ。

 家に着くまで、なにがあっても、車から降りるな。

 道端でダンボールに入った可愛い仔猫が、拾って、とか言いながら、鳴いてても降りるなよ」

 いや、運転中に、そんな細かいとこまで見えたり聞こえたりしませんけどね。

 でも、専務はなんだか気づいて降りそうだな、と思ってしまう。