のぞみが専務室から出ると、デスクに座ってイヤホンでなにかを聞きながら、ノートパソコンに打ち込んでいた祐人が顔をあげて言ってきた。
「なに騒いでたんだ?」
と。
またまた、御堂さん、とのぞみは思う。
分厚い専務室の扉の向こう。
しかも、イヤホンをしていた祐人に、なにも聞こえるはずがないと思ったのだ。
だが、
「……いや、今日はほんとに聞こえた」
あれだけ騒げばな、とICレコーダーを止めながら、祐人は言ってくる。
「お前は専務を怒らせる天才だな」
「なのに、何故、あの人は私と結婚しようとしてるんでしょうね?」
「好きだからだろ?」
そこにA4の紙ならあるだろ、と言うのと変わらない口調で祐人は言ってくる。
「そんなこと……」
と言いかけたのぞみの頭に、ふっと浮かんだ。
夜の川べりで、月を背に立つ京平の姿が。



