わたしと専務のナイショの話

 それが、と苦笑いしながら、のぞみは言ってきた。

「いや~、今朝もなんか頭痛くて~。
 専務の車に乗った辺りから、なんにも覚えてないんですよね~」

「覚えてないっ?」
と言う京平の声が裏返る。

「はあ。
 サザエの下の塩が食べもしないのに、昔ながらの製法で作られた天日塩だとシェフに聞いたところまでは記憶があるのですが」

「そんなどうでもいい細かい話は覚えておいてかっ」

 のぞみは、いや~、そんな風にキレられても~という顔をしている。

 ……覚えてないのか。

 俺は一生忘れまいと誓ったのに。

 歳をとっても、何度も思い出すだろうと思ったのにっ。

 あの朧月の夜にしたキスをっ。

 まあ、のぞみに言わせれば、PM2.5か黄砂により、霞んでいるだけだそうだが……。

 だが、覚えてないのなら、それもいい。

 京平は、やはり、えへ、と笑っているようにしか見えない誤魔化し笑いで後ずさりつつある、のぞみに言った。