わたしと専務のナイショの話

 だから、渡したあと、先生の顔も見ずに駆け出した。

 そんな風に封印していた思い出に浸るのぞみの頭の上で、京平はまたなにやら怒っている。

「何故、お前のような元生徒の小娘に、俺はこんなに遠慮がちなんだっ」

 知りません……。

「お前を見ていると、イライラしてくるっ」

 なんか学生時代にもそう言って怒られた気がする、と思っていると、
「顔も見たくないっ」
と京平は言い出した。

 じゃあ、帰れ、と思ったのだが、いつの間にか、両手を握られていた。

「お前を見ていると、落ち着かなくなるんだ。
 まるで俺が俺じゃないみたいに。

 俺の人生の主導権は俺が握っていたいのに。

 妻なんて添え物でいいと思っていたのに」

 おい……。

「お前と居たら、お前が俺の人生の中心になるんだよ。

 ほんと顔も見たくないよ。

 毎日、イライラして、自分が駄目な人間みたいな気がして、情けなくなってくる」

 月を背にした京平は、
「――いつからだろうな」
とまっすぐのぞみを見つめ、言ってきた。

「俺は、いつから、お前が好きだったんだろう?」