わたしと専務のナイショの話

 京平は迷ったようだったが、
「まあ、此処は素直に帰した方が親御さんの心証も良くなるだろうからな」
と言ってきた。

 その言い方だと、なにか悪巧みをしている人みたいですよ、とのぞみは思う。

「ああ、来なくてもいいのに、タクシーが来たな」

 そう言いながら、京平は手を挙げ、タクシーを止めてくれた。

 のぞみが乗り込むと、京平は後部座席に手をついて、身を乗り出し、タクシーの運転手に、
「これで。
 おつりはいりません」
と一万円渡していた。

 いや、そんなにしないと思うんですが。

 貴方の財布には実は一万円札しか入ってないとか?

 いや、さっきは五千円くれたんだったか。

 あの距離で五千円。

 此処からうちまでで一万円。

 お金持ちは金銭感覚と距離感が違うようだ、と思いながら乗っていると、
「じゃあな、おやすみ。
 まっすぐ帰れよ」
と言って、京平は軽くのぞみにキスをすると、のぞみの家の住所を告げ、

「じゃあ、お願いします」
と運転手さんに言って、車内から消えた。

 ドアが閉まり、車が走り出す。