「私たちって、付き合ってるんでしょうか?」

一緒に紅葉を見に行って以来、毎日頭を悩ませている疑問を真っ直ぐにぶつけた。

「……え? わからないの?」

「だって手も繋いでないし」

「それ、弄ばれてるだけなのよ。絶対」

「もうー! 里葎子さーん!!」

デスクの下でジタバタ足を動かしたら、うるさいよと先輩らしい叱責が飛んできた。

「じゃあ聞くけど、ちゃんと告白はされたの?」

「されてもないし、してもいません」

「でも都合よく付き合わされてるんだよね?」

「……電話はしてます。たまに」

「会ってないの?」

「一回だけ、ご飯には行きました」

紅葉のあと、一度ご飯を食べに行ってマフラーを返し、タッパーを返してもらった。
その後は何度か小川さんから誘われたものの、本当にたまたま残業と重なって三回連続で断り、今に至る。
誘いたくてもいつ入るともわからない残業が邪魔をするのだ。
もどかしさに身をよじる私に対して、小川さんはいつも『わかりました。大丈夫ですよ』と朗らかに答えるだけ。

「なんなんですか? 残業多くないですか、最近!」

「お歳暮の時期だし、新商品も出したからねー」

「そのせいでうまくいかなかったら、労災申請します」

気持ちとしては本気でそう言った。
だけどお金より、この恋がほしい。

「残業くらいで簡単に諦める男、やめた方がいいのよ」

ほらごらんなさいと里葎子さんは人の不幸に微笑みさえした。
この人の手によると、私と小川さんの関係はどんどん薄暗い色に染められていく。

「やっぱり明確に『付き合ってください』『よろしくお願いします』ってやり取りがないとダメですか?」

「そうとも限らないけどね。だからこそ、そこにつけこむ輩がいるわけよ」

「多分、ちゃんと両思いだとは思うんですよね」

「早めに確認した方がいいよ。『クリスマス用』ってキープされて、必要なくなれば切り捨てる気かもしれないからね」

ミスがないことで定評のある里葎子さんの仕事は、入念な確認作業に支えられている。
やんわり誘いをかける現旦那様に「あんた私と結婚する気あってそんな生ぬるい態度取ってるの?」と真っ向から確認し、ミスなく円満家庭を築いたのだから、それは正しいアドバイスなのかもしれない。
だけどそれを実行できる人ってどのくらいいるのだろう?

「そんな人じゃないと思うけど……」

「なんか前にも聞いたな、それ」