「ミナツさんは、よく自動販売機の前にいるんですか?」
突然現れた待ち人は、最初から隣にいたかのように自然な態度で空を見上げていた。
「……たまたま、です」
見つめ過ぎたらいけないと思って俯くと、首筋にくすぐったさを感じた。
手をやると指先にほつれた髪の毛が触れる。
あんなに気にした浴衣も着崩れしているに違いない。
ちらりと隣をうかがうと、彼は期待するように空ばかり見ていたので、落ちた髪はそのままに私も空を見上げた。
「明かりの中にいたから、すぐミナツさんだってわかりました」
ドーン! と欠けた花火に、「おおー!」と彼が歓声を上げた。
「やっぱり近くで見ると迫力ありますね」
「花火も久しぶりなんですか?」
「最近は遠くで音を聞く程度でした」
続けてパンパンパンと弾けるような花火が上がった。
それが消える直前に、またドーン! と上がる。
今度は柳のようにスルスルと流れるような花火だった。
「きれい……」
今初めて花火を見たような気持ちで、自然と口からこぼれていた。
ゆっくり空に溶けていく火の粉を、最後まで追いかける。
「きれいですね。ちょっと欠けてるのが残念ですけど」
彼の言葉に思わず吹き出す。
「夜桜も花火も中途半端ですね」
「見られただけで十分です。誘われなかったら来ませんでした」
「また自慢に利用してください。一応『女の子と花火見た』ので」
冗談めかしてそう言ったけれど、彼は笑ってくれず、空ばかり見ていた。
「言いません」
明るい紺色の空には、余韻の煙が漂うばかりで、彼が見つめる先はわからない。
「……どうして?」
「どうしても」



