フィンガーマン

8月20日月曜日―――菜摘失踪まで残り1日―――

昨日から俺は闇雲に電話をかけていた。
菜摘の実家、学校の生徒、教員、菜摘と関係のあったOB、そしてこの家の住人たちを訪ねて周った。

もうすっかり日も暮れていた。
クソ…謎の女への手がかりもなし。

他に容疑者も現れない。

あとは誰に聞き込めばいいんだ。
事件の資料も読み漁るがたいした情報がない。
警察にも問い合わせてみたが捜査情報を開示することは出来ないの一点張りだった。

『ああー!もうどうすりゃいいんだ!』

ベッドに横たわる。

"なつみ"

"なに?"

"居たのか"

"そりゃいるよ家だもん"

"学校は?"

"行って帰ってきた"

"そうか、もうそんな時間か"

"大丈夫?"

"ああ、明日も学校か?"

"ううん、明日は家に居るよ。誰かさんがうるさいから"

"デザイン画と衣装は?"

"ちゃんとあるよ"

"そうか!"

ささやかながら過去を変えられたことに落ちきっていた気持ちが少しだけ浮上する。

"ねえ、あなたはどんな人なの?"

"どんなって?"

"見た目"

"難しいな"

"じゃあ髪型は?"

"普通?"

"もー!全然分かんない"

"長くもないし短くもない"

"色は?"

"ちょっと茶色い"

"暗め?"

"ああ"

"身長は?"

"176㎝"

"太ってる?"

"普通だな"

"目はいい?"

"計ってないけど裸眼で余裕だ"

"二重?一重?"

"二重だけど"

"じゃあ彼女は?"

"いないけど"

"えー"

"なんだよ"

"べっつにー"

"なんの質問攻めだよ"

"だって明日なんでしょ?今のうちに聞きたいこと全部聞いておかなきゃ"

菜摘の意図がなんとなく分かった。
自分の身に危険が迫ってるんだから不安にならないわけがない。
それを押し殺して明るく振る舞ってたんだな。
何をやってるんだ、俺は!
絶対助けるって誓ったのに。
早く菜摘を救う糸口を見つけないと、そう思うのに今はとにかく菜摘と話していたかった。

ずっとずっとこうやって君と話していたい。

"ねえ"

"なんだ?"

"もし私が失踪しなかったらあなたに会いたいよ"

"いつでも会えるよ"

"じゃあ2018年8月22日16時に夕焼けの森公園の池のベンチで待ち合わせしよ?"

"いいよ、忘れんなよ"

"忘れるわけないじゃん。それまで会いに行ってあげないから"

"なんでだよ"

"だって感動が薄れちゃうじゃん"

"なんだよそれ"

それから俺たちは延々喋り続けた。
まるで消灯時間を過ぎても枕を付き合わせて喋り続ける修学旅行生みたいだと思った。
もうすっかり外は明るくなっている。

それでも俺たちは話すのをやめなかった。
会話を止めたときにもう二度と返事が返ってこないんじゃないかって怖かったんだ。