そんな生活でも、和子が生きていたのは心が生きていたから。


和子の目を見ていれば、分かる。


きっと、和子は陽希を愛しているんだ。


それも尋常ではない、異常な程に。


愛しているけれど、陽希には最愛の妻である魅雨や娘の紗雨(サウ)がいる。


このふたりを排除しなければ、陽希が自分の方を向かないとでも思ったのか。


いっつも、春馬はそれを止めようとしていたのか。


春馬は何か薬を盛られた挙句、催眠を掛けられたみたいだった。


御園家の女性にだけ伝わる、力で―……。


「春馬は?」


「兄さんは……高校をやめて、今も泣いてる。ごめんって、謝り続けている。自分がいなかったら、和子があんなふうになることは無かったって。悪いのは全部、あの女なのにっ!」


千華が怒りで、拳を握りしめる。


「……裁くな、って、春馬は言っているんだね」


「……春馬兄さんは、優しすぎる……どうして、あんなに優しい人が傷つかなくちゃいけないの……?総一郎くんだって、可哀想だよ……」


「……」


「陽向兄さんのところに、生まれてくれればよかったのにって……最近、泣きながら、ずっと、春馬兄さんが言っているの。ねぇ、何でっ?なんで、春馬兄さんが―……っ」


―兄弟の中で、いや、この家の中で、最も甘っちょろくて優しいやつはと聞かれたら、俺達は春馬を前に突き出すことだろう。


優しすぎて、優しすぎて、自分が傷つくことは厭わない。


多分、これからも和子のために、和子の茶番に付き合うのだろう。


幼い頃、いや、六年前、莉華が壊れてしまった時、春馬は莉華のそばにいたのに、何も出来なかった。


その事で、自分を今でも責めているみたいなやつだ。


誰かが苦しんでいる姿を見て泣いたり、どうしても助けたいと願った人が両手両足を使っても数え切れないほどいたり、ある日突然、自分にできないことを探してみたり……甘っちょろくて、純情で、可哀想なほどに真っ直ぐすぎたから、春馬は襲われてしまったんだ。