だから、その分の油断だった。


生まれた時から、ほぼ、俺達と生活していた相馬。


可愛くて、どうして、こんな子を憎めるんだと思った。


相馬が帰りたいと言えば、本家に連れて帰ってあげた。


その時、和子が言うセリフは多岐に亘ったけど、その中でも頻度が高かった、和子が狂っているってわかる言葉は。


『春馬、春馬、そこにおったんやなあ。どこに行っとったん?なんで、うちを一人にするん?一緒におってくれるって言うたのに。えらい好きよ、愛してるわ。春馬。そやさかい、うちを一人にしいひんでね』


ゾッとした。


春馬を縛り付けていた、言葉たち。


『あんたのせいで、春馬がいーひんようになったんや!近づくな、きしょい!あんたはうちん子供なんかちゃう!"おかん”なんて呼ばんといてや!そないな目でこっちを見な!消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ!!!』


そして、一方的に三歳〜七歳の子供の相馬を傷つける言葉たち。


そんな言葉を聞かせられないと、俺達が動いたら、相馬に縋りついて。


『お願い。うちから、この子を奪わんといて。―奪わんといて!私悪かった!そやさかい、奪わんといて!うちにはこの子しかいーひんの!!』


―そう、懇願してきて。


『ひなくん。りっちゃん。僕、大丈夫。大好きなお母さんが泣いてるから……』


相馬は健気なのか、それとも、ただ、母親から気まぐれに向けられるそれに期待していたのか、そう笑ってばっかりで。


悪循環で。


でも、止められるわけもないだろう?


相馬が一心に、信じようとしているんだから。


でも、とうとう。