「気にしないでください」と言い返すと、「そうなの?」と、先輩はそれ以上尋ねてこなかった。

このあっさりとした対応が、やっぱり私はただの後輩なんだなと実感させられるけれど。この掴めそうで掴めない先輩の存在に私は夢中になっている。


「あ、見て。とまと色の空だ」

そして先輩にしか言えないような独特な表現の仕方も心をいちいち揺さぶられてしまう。


赤色に染まる横顔も、毛質が細い髪の毛も、コンクリートに映る猫背な影も、胸がきゅんとする。

これはただの憧れなんかじゃない。


「食べたくなる夕日ですね」

先輩の真似をして、先輩が言いそうなことを言ってみた。


「いいね、それ」

すると、ニコリと先輩は柔らかく笑う。


ドクンとした鼓動は、今までの不意をついたものではなく、小さくなにかを知らせるような音。

私は今までなにを躊躇っていたのだろう。


ガツンとした強い衝撃なんていらなかった。

だってこんなにも心が教えてくれている。

先輩を目で追ってしまうことも、先輩のことばかり考えてしまうことも、答えはたったのひとつだけ。



私は、なぎさ先輩が好きだ。