「私、まだよく分からなくて……。どういう気持ちになれば好きってことなんですか?」
 
「うーん。この人なら地獄に落ちてもいいとか?」

「じ、地獄ですか?」

知的な詩織先輩には似つかわしくない言葉。


「ふふ、ごめん。ちょっと脅かしちゃったけど、要するに自分の全てを捧げてもいいって思えるぐらい心が揺れ動いたら、それは恋だと思うよ」


……自分の全て。

そんな風に私が思うことがこの先にあるのかは分からないけれど、詩織先輩はすでに経験している気がした。


「先輩はその、好きな人いるんですか?」

「うん。付き合ってもうすぐ一年になる」

詩織先輩はとても大人っぽいから彼氏がいてもさほど驚きは少なかった。


「年上の人ですか?」
 
「そうよ」

「どういう感じの――」と言いかけて、私の視線は別の方向へ。そこには学校に向かって走っている天音くんの姿。

しかも両手にはコンビニの袋を持っていて、お菓子が透けて見えていた。


学校が終わるまで校外に買い出しに行くことは禁止されているし、天音くんがわざわざそれを破ってお菓子を買いに出るはずがない。

と、なると思いつくのはひとつだけ。