そしてお昼になった。食堂に向かうと、想像以上の人の波。あちらこちらで怒号のようなものも響いていて、お正月の福袋戦争よりも凄まじい戦い。

こ、これは……たしかに勝てる気がしない。

引き返そうとしても後ろの人に押されて、どんどん熱気が強いエリアへと流されていく。


「ちょっと足踏まないでよ!」

「は?お前が押したんだろうが」


上級生たちの喧嘩もはじまっているし、私は完全に場違いだ。出入り口に戻ることもできずにおろおろとしていると、「あれ、なつめちゃんじゃん」と、一際大きな身体の人に声をかけられた。


「ま、松本先輩」

この空気に打ち負けている私とは違い、先輩はこの戦いに慣れているようだった。


「今日、弁当じゃねーの?」

「はい、寝坊してしまって……」

「それで学食?」

「と思ったんですけど、買えそうにないです」


おにぎりぐらいは、と安易に考えていた自分が甘かった。

今日は昼食抜きでもいいや。早くここから出ないと酸欠不足で倒れそう……。


「なに食いたいの?」

「え?」

先輩が前方のメニューに目を向ける。


「あ、カレーうどんオススメだったけどもう完売だ。たぬきうどんも上手いけど、どうする?」

「……え、じゃあ、たぬきうどんで」

すると先輩は地響きがするぐらい大きな声を出した。


「おばちゃーん!たぬきとカツ丼大盛ひとつずつ!!」


こんなに先輩の声が頼もしいと思ったことはない。

そのあと、先輩のおかげでたぬきうどんを買うことができて、私たちは食堂から中庭に移動した。