心にきみという青春を描く




「先輩は、先輩は……」

私は抱えていたままのキャンバスに力を入れた。


「先輩は夢に出てきたクジラを描かずにはいられない人で、近所の牛乳屋さんに詰まれた牛乳瓶でさえ描いちゃう人で……。先輩は、そういう人だったでしょう?」


先輩の瞳に映るもの全てが絵になってしまう。同じものや同じ場所を見ていても、きっと先輩が心で感じていることは私の想像よりも遥か遠いところにあって。

誰も思いつかないこと、誰も気にしないこと、誰も描かないものを、先輩は魔法のように作品にしてしまう。


それをすごいことだと自覚してないところ。

周りが騒ぎ立てても『そうなの?』って、あっけらかんとしてるところ。

誰よりも素敵な絵を描くのに、自分が素敵だと思った人の絵はちゃんと褒めてくれるところ。

そのすべてが〝なぎさ先輩〟だったはずなのに……。


「なつめは俺のことを買いかぶりすぎだよ」

先輩が呆れたように眉を下げた。


「俺が描いてきた絵に心なんて込めてなかった。吐き出すことができない感情のぶつけどころが絵しかなかったってだけ」

「………」

「俺はなつめが思うほどいい人じゃないよ。中身は適当だし、波風を立てたくないからいつも人を俯瞰(ふかん)で見てる。けっこう薄情なんだ。見てみぬふりも平気でするし、なつめが傷ついていると分かってて冷たくしてる」


先輩はそう言ってベッドに座った。

態度も声も目線すら、他人ごとのように淡々と言うから、私はぎゅっと唇を噛みしめる。


「なつめに優しくしたのも親切にしたのも深い意味はない。当たり障りないことをしてただけで俺は――」

「……深い意味なんていらない!!」


人生でこんなに大きな声が出たことはない。

これは怒りなのか悲しさなのか。感情のコントロールができずに呼吸さえも荒くなっていた。