心にきみという青春を描く




駅前のバスに飛び乗り、私はなぎさ先輩の家へと向かう。乗車時間はおよそ10分足らずだったけれど、胸はずっとドキドキしていた。

バスを降りて、高架下をまっすぐと歩き進めると先輩が住んでいるレトロなアパートが見えてきた。

銀色の手すりを使いながらゆっくりと上がり、私の足は201号室の前で止まった。そしてインターホンを静かに押した。


無意味に咳払いをして声を出す練習をしていたのに、無用心にもガチャリとドアが開き、心臓の鼓動が跳ねる暇もなく、なぎさ先輩の顔が瞳に映った。


「……あ、えっとその、こんにちは」

バスの車内でたくさんシミュレーションしたはずなのに、頭が真っ白になってしまった。


「どうしたの?」

しどろもどろの私とは違って先輩はとても落ち着いていた。


「と、突然ご迷惑だと思ったんですが今日は学校に来ていなかったので、その……」


ダメだ。全然質問の答えになってないし、先輩の顔を見たただけでこんなにも気持ちが込み上げてきて、うまく喋れない。


そんな私のことを先輩は無言で見つめていた。

きっと迷惑だったに違いないし、連絡もなしに訪ねたことに怒ってるかもしれない。


「傘は?」

「……え?」

「濡れてるけど」

先輩は私を避けているくせに、やっぱり優しい。

バスを降りた時には小降りになっていたので、持ってきた傘は差さなかった。その代わり、両腕に抱えたキャンバスはしっかりと布生地のカバーをかけてある。


先輩は前のように『上がってよ』とは言わなかった。

期待をしていたわけではない。ここでキャンバスを届けてしまえば用は終わりのはずなのに、それだけでは終わりたくない自分がいる。