私が描きたい絵はなんだろう。
先輩に届けたい絵はなんだろう。
モチーフを狂うことなくデッサンすること?
みんなに上手だって褒めてもらえる作品を作ること?
……違う。
私は上手くなんてないし、デッサンだってまだ初心者同然のレベル。
美術室にあったフルーツをそのまま描いても先輩はきっと喜ばない。
先輩の絵が魅力的なのは誰にも真似できないタッチと大胆さ。それは失敗することを恐れてないから、人の心を惹きつける。
なぎさ先輩は、私がはじめて恋をした人でもあり憧れた人。
その想いをぶつけるために、私も枠にとらわれるだけの絵なんて描きたくない。
「え、なつめちゃん、消してるの?」
隣の詩織先輩がビックリしていた。私は半分以上描いた下絵を練り消しで擦り、すべて綺麗になった頃には真っ白なキャンバスに元どおり。
私の視線はモチーフではなく、キャンバスだけに集中していた。
そして下絵を描かずに自分の頭の中にあるイメージで、水彩絵の具を乗せていく。
歪(いびつ)でも下手くそでもいい。
私はなぎさ先輩に届けるために、この絵を描く。



