「あおいさん、ですか?」

「……え?」


あれからずっと考えていた。

先輩のポーカーフェイスを崩すためじゃない。どうやったら先輩の心に触れられるのかを探していた。


〝あおい〟

一瞬で、先輩の大切な人の名前なのだろうと察した。


だって、先輩は青色の絵の具ばかりを使う。それで青いひまわりを描き、寝言で『あお』と言っちゃうぐらい、つねに頭にあること。

あの時は分からなかったけれど、先輩は夢の中で名前を呼んでいたのでしょう?


「言いづらいことも、ツラくなることも、たくさんあるのは分かってます。でも私は知りたいんです。先輩の過去になにがあったのかを」

私に話す必要はないと言われても引き下がるつもりはない。

先輩が好きだから、先輩のことが大好きだから私は聞きたい。誰かからではなく、なぎさ先輩自身の言葉で。


「私に話してくれませんか?」

声は震えるけど、涙は溢れない。だって今、泣きそうな顔をしてるのは先輩のほうだ。


「俺は――」

記憶の糸を辿るように、先輩はゆっくりと話はじめた。