それは全部、なぎさ先輩のこと。

先輩がいつまでも笑っていられますように。

先輩がいつまでも穏やかでいられますように。

そんな先輩の隣に、いつまでもいられますように。

願えば願うほど、想いがどんどん強くなる。


「先輩」

私はしがみつくように、先輩に向かって手を伸ばしていた。先輩のパーカーを握る頃には、私たちの間に距離はなくなっていた。


「……なつめ?」

これは私の心臓の音なのか、それともビックリした先輩のものなのか分からない。でも私はもっと心臓が壊れることを言おうとしている。



「好きです」

静寂に包まれている美術室では、聞こえなかったと嘘がつけないほど私の声がクリアに響いた。


「なぎさ先輩が好きです」

パーカーを握りしめながら顔を上げる。


先輩のビー玉みたいな瞳に私が映っていて、見つめ合っている時間が永遠のように長く感じた。


いつも平静としている先輩が動揺していた。『なに言ってんの』って流されたくなくて。『ありがとう』ってライクとラブを履き違えてほしくなくて、私は絶対に先輩から目を逸らさなかった。


私の真剣な気持ちが伝わったように、先輩はそっと私の手に自分の手を重ねた。そして……。



「ごめん。なつめ。俺、忘れられない人がいるんだ」

耳を塞ぎたくなるようなことなのに、私はこの言葉を聞きたかった気がする。