「……ち。あいつ逃げ足だけは速いんだよな」
「……そういう言い方、やめてもらえませんか?」
「は?」
ギロリと睨まれて怯みそうになったけれど、私はなんとか足に力を入れて踏ん張った。だって、逃げ足が速いなんて、まるでいつも先輩が逃げてるみたいに聞こえる。
「お前、あいつのこと好きなの?」
「え……」
たった数秒の間に見抜かれてしまった気持ち。踏ん張ることはできても動揺までは隠せなかった。
「だ、だったらなんだっていうんですか?」
もう開き直るしかないと、私は声が強くする。
「へえ、あいつのこと好きなんだ」と、バカにしたように復唱したあとに、なぜか手を強引に掴まれた。
「ちょっと付き合えよ」
反論なんて認めないという雰囲気で、私は散歩を拒否する犬のようにズルズルと引きずられてしまった。



