「今日、帰りに予備校に行ってみますか?私付き合います!」
「……でも、約束してる時以外は来ちゃダメだって言われてるの」
「そう、なんですね……」
きっとふたりのルールがあるのだろう。早く先輩の不安を取り払ってあげたいけれど、私が突っ走ったことで関係が悪化してしまったら意味がない。
筆を持ったまま曇った顔をしている先輩に、なんて声をかけたらいいのか考えていると……。
「なあ、俺ん家今日すき焼きなんだけど来る?」
気づくと、松本先輩が私たちの横にいた。もしかしたら会話が聞こえて、詩織先輩のことを元気づけるために誘いにきたのかもしれない。
「なんですき焼きだからって、私が松本先輩の家に行かなくちゃいけないんですか?」
詩織先輩がツンとした態度をする。
「笹森だけに言ったんじゃねーよ。なつめちゃんも誘ってんだけど」
「え、私もですか?」
これはきっと口実に違いない。詩織先輩だけだったら行かないけれど、私と一緒だったら来るかもしれないという、松本先輩の訴えがひしひしと視線で感じる。
「……い、行きます!」
私は大袈裟なぐらい右手をピンッと挙げた。
「よし。笹森は?なつめちゃんは来るってよ」
「うーん。なつめちゃんが一緒なら別に行ってもいいけど」
詩織先輩が渋々返事をしたところで、「え、僕も行きたいです」と天音くん。どうやらすき焼きに釣られたようだ。
「だったら俺も行く。晩ごはんどうしようか悩んでたし」
……なぎさ先輩まで。
なんとなくこうなることは予想がついていたけれど結局、私たちは全員で松本先輩の家に行くことになった。



