春奈は俺の隣に座って
母さんの話をしてくれた。

「私、美恵子さん…あ、あなたのお母さんからたくさんの話を聞かせてもらってたんです。

イタズラが大好きで憎たらしいくらい可愛い小学生みたいな息子がいるんだって自慢してました。

美恵子さんの言う通りです!」


「え?」


「本当に小学生みたい」

俺はどこがだよと笑ってしまった。

「お母さんが倒れただけで
こんなに同様してる大人もいるんですね。

あなた、美恵子さん大好きでしょ?」


俺は戸惑った。
それはマザコンって意味か?
母さんはいるのが当たり前で…

でも、電話で怒鳴ってしまったことを謝りたくて。
俺は黙ってしまった。


「美恵子さんはあなたが大好きでした。

最近、あなたが忙しいっていうのも電話越しから知っていました。

それでも、自分の命が短くなる怖さから電話をしてしまうんだ。

最後にあなたに会いたくて。
私にはそう話してくれました。

あなたはすごく動揺してるけど、私は美恵子さんが倒れてあなたが来てくれて

喜んでいると思いますよ!」


春奈はずっと立ち上がり
俺の前に立って手を差し出した。

「さぁ、帰りましょう!
美恵子さん、目を覚ましたんです!!

お姉さんのご飯を食べて今日はたくさん
お母さんとお話することを私はおすすめしますよ!」


春奈が笑うからつられて
俺も笑った。


雨に濡れて冷たくなったはずの身体が
少し暖かくなった気がした。


春奈の差し出した手を掴んで
そのまま手を繋いで帰った。


春奈を女として見てたつもりは無い。
その時は、人の温もりがほしくなった。


ただ、それだけ。