涙がポロポロ出ている愛菜を抱きしめるしか
方法がなかった。

帰宅時のせいか人も多い。
通りすがりの人が僕達をチラチラ見ていた。

「よっ、なにし…てんの?って…
愛菜ちゃん?!」

後ろから僕を叩き声をかけて来たのは
加賀くんだった。

「いや、それが…僕にも分からなくてさ…」

「もう、部長たち居酒屋向かってるよ。」

急いで連れていきたい気持ちと
このまま家に連れて帰りたい気持ちが
交差し続けた。

愛菜は僕の胸の中で涙を流し続けていた。

「国分くん、とりあえずさ
居酒屋行かね?」

驚きのあまり、眉間にシワ寄った。
愛菜がこんな状態なのに?
加賀くん、楽天家にも程があるよ。
加賀くんにも怒っていたが
何も行動できていない自分にも怒っていた。

困惑する僕を気にせず
加賀くんは泣いてる愛菜に話しかけた。

「愛菜ちゃん、はじめまして。
旦那さんの同僚の加賀ひろきです。
今から、飲み会行かない?
今日会ったこと、おじさん達に話してくれない?
きっと、愛菜ちゃん可愛いからみんな親身になってくれるよ!」

加賀くんの言葉を聞いて
顔を左側にいる加賀くんの方へ向ける。

首をかしげ愛菜の顔色を見ると
涙は止まっていた。

ゆっくりと僕の方を見る愛菜
自然と微笑み返す僕。
いや、きっと困った顔をしてしまっただろうな。

「…行きます。」

僕から少し離れ
加賀くんにお礼を言った。

「ありがとうございます。
トイレに行って、顔を洗ってくるので
もう少し待っていてください。」

そう言うと愛菜は駅のトイレへ向かった。

「加賀くん、ありがとう。
僕じゃどうしようも出来なくて…」

加賀くんは惚けた顔をして

「え?なんのこと?
俺は愛菜ちゃんとお酒飲みたかっただけなんだけど?」

え?


僕と加賀くんの間の空気が
一瞬凍った気がした。

愛菜もだけど
それ以上に加賀くんを理解出来なかった。