ここに来てから沈黙が続く。

「あの…恭也とはどういう関係?」

明らかに年上の私が最初に言うしかない。
先制攻撃を。

「私は愛菜と言います。
恭也さんとは去年結婚して、今はここで専業主婦をしています。
隣にいるのは私の友人です。今日遊びに来てたんです。」


は?…
結婚?

あんなにしないって言ってたのに?

結婚?!
私とはしなかったのに?

悠々と買ってやると思っていた。
でも、私にとって結婚したという答えは
思いもよらなかったこと。いや、考えないようにしていた事だった。
気づいた時には
私の言葉はどんどん出ていた。

「恭也が結婚?!
私が海外にいる間?!なんで、あなたみたいな子と?!
あのさ、私いくつだと思う??
今年、31だよ?!
私はあっちにいる間、ずっと恭也を思っていたのに!
遠距離恋愛はお互い辛いから私から別れようって言ってあげたのに?!」

愛菜という女の子はただ、真っ直ぐ私を見ていた。
そして、一言。

「すみません、私はあなたが恭也さんを思っていることを知りませんでした。」

この子何言ってるの?!
また、何かが切れたきがした。
「そりゃ、知らないだろうね!」

すると、隣に座る友達が笑った。
意味がわからなかったし、腹が立った。

「あの、お名前聞いても?」

「小泉理沙子ですが」

「理沙子さん、今の愛菜の言葉が全てです。
1年間、小泉理沙子という名前を聞いてこなかった。知らなかった。
つまり、恭也さんはあなたを想っていない、または、忘れているということです。
恭也さんから、他の女の人の気配を感じられないくらい、愛菜は恭也さんに愛されています。」

「はるちゃんの言う通りです。
貴方がどれだけ想っていたか知りませんが
貴方はその想いを恭也さんに伝えてませんよね?」


怒鳴った反動が言葉の一つ一つが
グサリと突き刺さる感じがした。
若い子に諭され、
怒りをあらわにせず、淡々と話す姿を見て
情けなくなった。

電話がなり愛菜が出た。
きっと、恭也だろう。代わりたい。声が聞きたい。
けど…やっぱり負けだと思った。
なんのために1週間も…

「理沙子さん、私が言うのもおこがましいですが
もっと周りを見てみたらどうですか?
これだけ感情を出せるお方なら、きっといい人がいます。」


本当におこがましいと思ったけど
敗者になった自分を見たくなかった。

「帰ります。お騒がせしました。」


急いでマンションを出て、実家に帰るバスに乗ろうとバス停にいた。
落ち込んでいると、携帯が鳴った。
海外にいる同僚からだった。

「もしもし?!理沙子?!
俺だよー!日本には着いた?」

「なによ。心配でかけてきたの?!」

「いや、好きな人に会うんだーとか言ってたから…」

さっきの今では何も話せなかった。

「理沙子?大丈夫?」

「今話したくない。」
私は切ろうとした。
何も考えたくない。忘れたいんだよ。

「待って!!まって!理沙子!
僕、今、日本なんだ!!」

耳から携帯を話しているのにその声は
直に耳に届いた。
当たりをキョロキョロすると
向かいの道路を見ると
あいつが手を振っていた。


「もっと、周りを見てみたらどうですか?」

あの子の言葉がふと脳裏を過った。

「理沙子!
僕も日本に来ちゃった…素直な理沙子が生まれた日本を見たくて…」

呆れて笑うしかなかった。
年下の女の子にここまで言われて
負けた気がしたのに、スッキリしてる。

あー恭也、あんた幸せ者だよ。
ズリぃなぁ。


「よし、どっか食べに行こう!!!」

私達はそのまま居酒屋へ向かった。
ありがとね、愛菜さん。