すべてが始まったのは、暖かくなり始めた三月の半ば。
看護師一年目もそろそろ終わり、二年目に入る頃のこと。


私は自分の体調の異変に気づき、自分の勤務する病院とは別の個人医院へ行き診察を受けた。


その時に貰ったものを片手に私は、医局を目指していた。
喜んでくれる? 驚くかな?


早く彼に話さないと。
その一心と、私自身は診察の結果への喜びに溢れていて、足取りも軽く向かっていた。


覗いた先には、大好きな彼とその同僚。
少し待とうかなと思った矢先、聞こえてきた言葉。
私は眼前を黒く塗りつぶされた……。

「お前、どうだ? そろそろ奥さん帰国だろ? 1年の研修留学だったもんな?」

「あぁ、そうだな……」

「お前、若い看護師に手を出しただろ? あの子、他の医師や技師にも人気だったのに」

「なんだ、知ってたのか?」

少し驚いたような彼の声。
それに同僚は分かりやすくからかいを含めた声で話しかけた。

「だって彼女は分かりやすくお前を見つめてたからな」

そんなニヤニヤと告げる同僚医師に彼は言った。


「まぁ、暫くは控えるけどな……」


クスクスと笑って言う彼の姿に、私は軽くめまいを覚える。


「帰国前に決着つくなら早くしろよ? お互いのためだろ?」


そう言われた彼は、笑いを治めて重めのため息を吐きつつ


「あぁ、そうだな……」と呟いたのを聞いた。


手に持っていたそれを、落としそうになりつつ私は服のポケットに入れ込む。
慌ててその場から、自分の担当する病棟に足早に戻った。