嘘を吐かなかったことを、今さら後悔している。
バニラの香りにしておけばよかった。
可愛い服にすればよかった。
いつもの、最高に可愛くつくって武装した私になら、いくらでも言い訳ができたのに。
あなたがつくったわたしは、諦めがつかないほどそのままのわたしだった。
恋愛は視線の奪い合いだ。
先に目を奪われたのは私。
「あなた」と呼ぶときだけ私を向いていた目は、今や別の人を見ている。
いつも理想を体現して完璧だった彼が、私が目の前に座っているのに、あの目をしなかった。
こちらを向かない色素の薄い瞳に、ああ、と思った。
ああ。ああ。
すきだった。
嫌いと言えるほど口に出さなかった。
何も言わずに始まって、会う度勝手に重たさを増した恋を、秘密のままやめるときが来たのだ。
「それじゃあ、また」
「……また」
すべては優しい目眩の向こう。
Fin.
バニラの香りにしておけばよかった。
可愛い服にすればよかった。
いつもの、最高に可愛くつくって武装した私になら、いくらでも言い訳ができたのに。
あなたがつくったわたしは、諦めがつかないほどそのままのわたしだった。
恋愛は視線の奪い合いだ。
先に目を奪われたのは私。
「あなた」と呼ぶときだけ私を向いていた目は、今や別の人を見ている。
いつも理想を体現して完璧だった彼が、私が目の前に座っているのに、あの目をしなかった。
こちらを向かない色素の薄い瞳に、ああ、と思った。
ああ。ああ。
すきだった。
嫌いと言えるほど口に出さなかった。
何も言わずに始まって、会う度勝手に重たさを増した恋を、秘密のままやめるときが来たのだ。
「それじゃあ、また」
「……また」
すべては優しい目眩の向こう。
Fin.


