「慎二、上へ行こう。」

「ああ。」

咲良は放り投げた慎二のカバンを拾おうとかがんだ拍子に、後ろにいた誰かを突き飛ばしてしまった。

正確には身体がその女性のバッグに当たり、中に入っていたボトルを地面にぶちまけてしまった。

ボトルはドンという衝撃でステンレスのボディーが凹み、運悪くフタが開いてお茶らしき液体がこぼれ一面に湯気が立った。

「も、申し訳ない。すみません。」

と咲良は謝りながら転がったボトルを拾った。

そばに突っ立った女性は先程の泥棒騒ぎで恐怖を感じていたのか、自分の身に起こったことに咄嗟の反応ができないでいた。

「咲良、この子。」

「えっ?」

慎二の声で慌てていた咲良はやっと気づいた。

毎朝コンビニの前で見ていた気になるOLだった。

「俺、弁償しますから、連絡先を教えてもらえますか?」

「いいえ、私も不注意でしたので。」

「こいつのせいだから弁償してもらった方がいいですよ。」

慎二が機転を利かせてすかさず言った。

「でも。」

咲良は素早く名刺を出した。

「ここの17階にいます。」