でも、優海はあっけらかんと笑った。

『そんなことないよ。神様はいるよ』

私は肩をすくめて、いるわけないじゃん、と言った。

『それか、もし本当に神様がいるとしたら、めちゃくちゃ性格悪いやつだよ。人間を苦しめることに楽しみを見出だすようなヤバいタイプのやつだよ、きっと。信じるに値しないようなやつだよ』

断言した私に優海は『ほんと凪沙は毒舌だなあ』と言って、おかしそうに笑った。

何度も繰り返しているやりとりだった。

でもその日はふと不思議に思って、訊ねてみた。

『ねえ、どうして優海は神様を信じられるの』

優海はきょとんと目を見開いてから、当然のことのように答えた。

『信じる者は救われるって、父ちゃんが言ってたから。悪いことも起こるかもしれないけど、信じてたらきっといつかはいいことがあるから、くさっちゃだめだって。だから、俺は神様を信じる』

きっぱりとした答えだった。

そのときの一点の曇りもない笑顔を、私は今も忘れられない。

目頭が熱くなってきた。

ねえ、神様、と神棚に向かって心の中で語りかける。

神様なんかいないって思ってたけど、今なら、いるって信じてあげてもいい。

だから、証明してよ。

神様はちゃんと人を幸せにできるって。

神様を信じる人は救ってあげられるって。

優海はあなたのことをずっとずっと信じてるんだよ。

どんなひどい目に遭ったって、信じてきたんだよ。

だから、もうこれ以上、優海にひどいことしないで。

優海の大切なものを奪うのは、これで終わりにして。

優海を幸せにしてあげてよ。

お願いだから。


涙を流しながら、私は生まれて初めて、本気で神様に祈った。