時間の感覚は全くなかった。

ただただ凪沙だけを見ていた。


しばらくして、男の子が水を大量に吐いて、息を吹き返した。

わっと歓声があがった。

俺は凪沙に心臓マッサージをしながら、凪沙が救おうとした子は助かったよ、次は凪沙の番だよ、と語りかけた。

でも、凪沙は固く瞼をおろしたままで、真っ白な顔は生気を完全に失っていた。


すぐに救急車が到着して、凪沙が先に担架にのせられた。

家族ですと言って、俺は凪沙と一緒に救急車に乗り込んだ。

たくさんの機器につながれて、凪沙は白い人形のように横たわっていた。

だらりと垂れた腕をつかんで、その手を掌で包んだ。

氷みたいに冷たくて固くて、背筋が凍った。

少しでも温めてやりたくて、必死に握りしめた。