約束の5分前にピンポーンと電子音が鳴り響き。液晶モニターに映ったのは、スーツ姿で部屋の前に立ってる榊(さかき)。辺りを警戒するような仕草で、相変わらずの慎重派。

 築八年、三階建ての賃貸マンション。実家からも職場からも車で30分以内の距離を基準に、自分でもイロイロ探して。最終的に遊佐がくれた情報で決めたのがここ。
 駅から遠いけど、1DK、駐車場ありで家賃も手頃。玄関が道路側に面してて防犯性高そうとか、ベランダ側が駐車場で陽当たりいいとか、他にこれほどの優良物件も無さそうだったし。

 哲っちゃんからやら、おばあちゃんからやら、食材だのお土産だのを宅配させられる榊は、何だかんだ来てる回数が一番多いと思う。 

「今、出るね」

 モニターホン越しにそう声を掛けると、『・・・おう』とぶっきらぼうな短い返事が返った。

 今日は気温がかなり高くなるって予報。
 七分丈のドルマン風の丸首ブラウスとロングスカート。上はチェック柄、下は無地を合わせ、シックなカジュアル。髪は緩くおさげに。
 姿見の鏡でさっとチェックしてから、戸締りの再確認して玄関のドアを開ける。目の前に身長は遊佐より高いのが、壁みたいに立ってた。

「おはよ」

「・・・おう」

 榊は紺のスーツに紺のネクタイ。仕事モード全開オーラに、思わず本音が零れた。

「ねぇねぇ」

「何だよ」

「今日はプライベートなんだし、スーツじゃなくていーのに」

「・・・ほっとけ」

 短髪の面長で、目付きが鋭い上に愛想もない榊俊哉(さかき としや)とも、気心知れた長い付き合いになる。
 本人は自分の意思でって言うけど、あたしが極道の娘で、遊佐もこっち側だったから。高校卒業して、バカ真面目にウチに来て本家の一員になった。 
 今じゃすっかり哲っちゃんの手足だもんねぇ。立派な極道になっちゃったね。・・・・・・・・・・・・。

 榊のご両親には親不孝させたコトを詫びるしかない。でもね。居てくれて良かったって心から思ってる。あたしにとっても遊佐にとっても。あんたは掛け替えのない親友で、宝物だから。

「変に真面目だよね、榊は」

 鍵をかけながらクスクス笑うと、背中で溜息の気配。

「・・・いいから早くしろ」

「ハーイ」

 後ろを守るようについてくる、かつての同級生は。オトナになって頼もしい騎士(ナイト)に変身してた。