グレーの三つ揃いに黒いシャツ、真珠色のネクタイ。相変わらず銀縁眼鏡の奥で、眸は冷ややかな色に見える。
 脇に来て、正座でおじいちゃん達に遅れたお詫びと挨拶を言った仁兄は。そのままあたしに向き直って「宮子、誕生日おめでとう」と仄かに笑んだ。

「ありがと・・・仁兄」

 笑み返す。目が合ったのをあたしは僅かに逸らした。

「お疲れ。ビールでいーの?」

 遊佐が軽く声をかけると、その奥に胡坐をかいて座った仁兄は短く頷いた。

「じゃあ取りあえず、もっかい乾杯ー」

 宴会部長サンの号令でグラスを掲げ、二度目の乾杯。




 八時を過ぎた頃には続き間を開放して、事務所待機以外の組員さん達も招く。だいたいこの辺りから宴会色が濃厚だ。

「宮子お嬢、誕生日おめでとうございます!」

「ありがとうぉ、葛西さん~」

「これ、自分達からです」

 そう言って差し出された包みを開けると。ガラス細工のカボチャの馬車。金色の車輪が付いてて動くし、キラキラして綺麗だしカワイイ~っ。 

「大事にするねぇ~っ」

 目の前の彼にハグ。

「お、おじょ、おっ」

「あー葛西さん、気にすんな。宮子、酔っぱらうと抱き付き魔になんの」

「えー、ちがうもーん」

「ハイハイ、オマエはオレに抱き付いてな」

 躰が引っ張られて、温かいナニかに寄りかかってるあたし。・・・遊佐の匂いだぁ。
 ふわふわしてる頭を撫でられて、もっとキモチがふわふわになる。

 仁兄を意識しすぎた所為か、ちょっとハイペースだった。ビールはあんまり呑まないのが効いて、普段よりアルコールが回ってる。

「ゆさぁ・・・」

「んー」

「・・・すきぃ・・・」

 ふわふわで・・・、ちょっと、ねむ、い・・・・・・。

「・・・知ってる」

 遠くで優しい声がした。


 
 それから躰が浮き上がって。「俺が連れてく」ってダレかが言った。
 あたしは眠くてされるがままで。
 ふかふかの上に横たえられても、ぼんやり。
  
「水飲むか」

 ・・・うん。寝ぼけたまま。

「・・・口開けろ、宮子」

 半開きした口にナニかの感触が押し当てられて。冷たい水が喉に流れ込む。もう一回繰り返されたところで意識が冴えてきた。
 ・・・あれぇ、今のって・・・?

 くっつきかけてた瞼を薄く瞬きして、ようやくこじ開ける。
 いつもとチガウ何かに、ただ本能で反応したのかも知れなかった。

 スタンドライトだけの薄明るい中。あたしを見下ろしてたのは遊佐じゃなく。・・・仁兄だった。