朝が早かった哲っちゃんは自室に引き上げ、リビングには、ソファに根が生えた榊と仁兄だけ。
 二人ともネクタイ外してシャツを気崩し、肘まで袖まくってる。
 テーブルの上のボトルとおつまみを見る限り、まだまだ飲み明かす気なんだろう。それにしても珍しい取り合わせ。 

 あたしは首を傾げた。

「遊佐は?」

「・・・潰れたからベッドに放りこんだ」

 榊がボソッと。
 つ・ぶ・し・た、の間違いでしょお、あんたは!
 大仰に溜息を吐く。
 
「じゃあ、あたしも寝るね。おやすみ」

「・・・おう」

「・・・・・・ああ」 

 仁兄の声を背中で聴いた。
 視界には入ってたけど見ないようにしてた。
 目が合うのが怖かったから。
 

 


 遊佐の部屋に戻ると、ベッドの上で大の字になって行き倒れてる大っきなコドモが。シャツもズボンも脱がないままで、全くもう。

「遊佐ぁ? 寝るンなら全部ぬぐよー」

「・・・んー・・・」

 どうやら意識はある。
 しょうがないからベッドに上がって、上から順に引っぺがしてく。最後にトランクスを回収して、素っ裸になった遊佐を転がしておく。
 次に。液体ハミガキ入りのコップと洗面器を用意。コツは幼稚園の先生よろしく、優しくあやして言うコト。

「ほら遊佐ぁ、ちょっとだけ起きてー? ハイ、お口スッキリしようねぇ?」

 半分朦朧としてる成年男子の頭を、まずは膝枕の上に抱え上げます。
 すると大概、うつ伏せ気味に腰に抱き付いてくるので、すかさず口にコップを突っ込みます。

「飲んだらマズイから吐き出してー」

 用意した洗面器はこの為です。

「はい、よく出来ました!」

 必ず褒めてあげましょう。 
 羽根布団をすっぽり被せておけば、あとは朝まで熟睡です。



 無防備な寝顔。まつ毛長いし。
 頬にそっと指を滑らせた。
 口がちょっと半開きで寝息立ててる。
 どんなにだらしない姿見てたって、遊佐が好きでしょうがないんだから、あたし。

 「・・・愛してるからね」

 何かが押し上げたように呟きが漏れる。

 臼井の家になんて生まれなきゃ良かった?
 そしたらあたしは、遊佐と出逢えなかったのかな?

 こんなに傍にいるのに。
 もう離れられないのに。

 伸ばした手が。あと少しで・・・届かない。