お父さんのゴルフ接待の付き合いで出かけてた哲っちゃんと、留守番で本家に詰めてた遊佐と榊が帰って来たのは夜の8時過ぎ。

「お帰りなさい、哲っちゃん!」

 濃色のシャツにベージュのチノパンていうカジュアルな恰好でも、イケメンはやっぱりイケメン。
 抱き付いて出迎えると頭を撫でられる。いつもの儀式だ。

「・・・ただ今帰りました、お嬢」

「オレより親父が先ってどンだけなの、オマエ」

 後ろで松葉杖片手に立ってた遊佐が心底呆れてるから。しれっと言い返した。

「だって哲っちゃんがこの家の家長さんだもん」

 それからちょっと背伸びして軽くキス。「おかえり、遊佐」

「ん。ただいま」

 キスが返って。これもあたし達の儀式。
 その隣りを見上げては、からかい気味に。 

「榊もしたげよっか?」

「・・・要るか、馬鹿」

 うんざり顔もいつも通り。

「・・・・・・お前達は相変わらずだな、全く」

 だから。突然その後ろからした声に,あたしは息を呑むしかなかった。
 なんで。
 ぬりかべみたいにそそり立つ榊の陰に気付いてもなかった。
 仁兄がいたコトを。