仁兄が迎えに来る時は運転手付きの車でじゃなく。スポーツタイプの外車を自分で運転してきて、助手席にあたしを座らせる。
 割り込みされて、黙って後ろから呷(あお)るぐらいはやらかしてた遊佐と違って。仁兄のドライビングは冷静でオトナだ。


「何か食べたいのは、あるか?」

 ハンドル握る仁兄に横目で一瞥されたから、礼儀として頭を捻る。
 今みたいに訊いてくる時もあれば、何も言わずに連れて行かれたり。こないだはカニだったっけ。なんか今日は疲れたし、さっぱりしたのがいいなぁ。って思ったらつい。

「・・・おうどん?」

 口から飛び出てた。
 見事に押し黙った仁兄。

 丈が長めのカットソーに膝上のキュロットスカート、って割りとラフな恰好のあたしと、きっちり三つ揃い着込んだエリート風のイケメン。
 せめてイタリアンにしとくんだった。すかさず言い直す。
 
「あ、冷たいパスタとかもいいな」

「分かった」

 
 こういう時。
 遊佐だったら『えー。オレ、肉』って言いながら。じゃあファミレスでいっか、ってなって。榊と三人で好きなの食べたりね・・・・・・。
 
 窓の外に視線を逃がす。
 隣りにいるのはもう仁兄なんだから。未練がましいよ・・・あたし。