みんな、あたしが無事で良かったって。お父さんもおじいちゃんも口々に、遊佐をヒーローのように。あたしを良く守ってくれたって。

 そんな中、哲っちゃんだけは。息子の油断と不注意が招いた結果だと、頭を深く下げてあたしに詫びた。

『・・・ですからお嬢。真の脚の一本や二本、宮子お嬢の命に比べればどうってもんでも、ありませんよ』

 

 なに言ってんの。
 どうしてそうなるの、哲っちゃん。
 だって遊佐の脚だよ。
 今まで、さっきまで普通に走れた脚が。なんで。あたしを庇った所為で。
 ぜんぶあたしの所為なのに。

 どうってことない、なんて。 

 あたしが迎えに来させなかったら、あんなコトにはならなかった。
 面倒がらずにコンビニで傘買って、一人で帰れば何も起こらなかった。
 
 遊佐の人生壊して、台無しにしたのはぜんぶあたしでしょ?!



 ベッドの上で泣き叫ぶあたしを、瑤子ママが泣きながら抱き締めた。

『真は死んだってそんな風に思わないからっ。宮子ちゃんを助けられたんだから、男としてこれ以上の誇りは無いじゃないの・・・ッ』


 
 
 その後、退院してから毎日お見舞いに行った。
 遊佐は。
 項垂れて『ごめんね』しか言えないあたしを。

 『誰も謝れなんて言ってねーだろ』

 冷たく突き放して、口をきこうともしてくれなかった。
 自分を責め続けるだけのあたしを。徹底して赦さなかった。


『・・・・・・助けてもらった礼は、まず「ありがとう」だろ。それから真の目ェ見て、ちゃんとアイツの気持ち訊いてやれ』

 病院の帰り、泣いてばっかりのあたしに榊がかけてくれた、ぶっきらぼうな言葉。
 あのとき気付かせてくれなかったら、あたしは見失いすぎて駄目になってた。きっと。遊佐も、負い目しか見えてないあたしから離れてた。
 

 あたしと遊佐は。
 雨降って地固まる、なんてカワイイもんじゃないの。
 ものすごい土砂崩れがあった雨の跡に立って。少しずつ乾いてく地面の上に今もいる。
 遊佐は車椅子の車輪で、あたしは二本の脚で。足許ガンガン固めて、前に進む道を創ってくの。あたしはそう決めてるの。