「彼、神出鬼没で」


思わず零すと、女将さんは明るく笑いながら「それはミステリアスでいいね!」と、たつ君と手を繋いで立ち上がる。


「じゃあ、そのお友達にもありがとうと伝えおいてくれるかい?」

「はい」


頷いてみたものの、結局ナギの家も連絡先も聞けずじまいで、自分の要領の悪さに溜め息が出そうになった。


「駐在さんもありがとうね」

「いえいえ、見つかって良かったよ」

「凛ちゃん、もしうちに戻るようなら車に乗っていくかい?」


女将さんが誘ってくれて、けれど私は頭を振る。

ヒロの自転車を比良坂神社の前に停めたままなのだ。

もしかしたら、そこにナギも戻っているかもしれない。

そう思って、私は断った。


「そうかい? 今日の夕食はとびきりのメニューでおもてなしするからね」


楽しみに帰っておいでと言って、女将さんはたつ君と車に乗り込んだ。

夕食を楽しみに帰る。


「……そんなの、久しぶりだな」


神社へと戻る道中、思わず零した私は、女将さんの言葉に家庭の温かさを感じて。


『お母さん、今日も遅いの?』

『そうよ。夕飯はいつもみたいに下のコンビニで適当に買って食べなさいね』


ひとりぼっちの食卓の寂しさを思い出せば、ツンと、鼻が奥が悲しく痛んだ。