島に帰る話を母にした時、昔住んでいた家があった付近を見てこようかなと口にした私に母は言った。

『何もないところを見に行ってもつまらないでしょ』と。

確かに、父と共に住んでいた家は残っていないけれど、この町にはたくさんの思い出が残っている。

だってほら、この角を曲がると、生前、父がよく利用していたタバコ屋さんがあるのをなんとなく覚えてる。

田畑の合間に建つ家々は瓦屋根をかぶり、どこか懐かしさを纏う佇まいで。

水田脇の細い道を軽トラックが走るのを目の端で捉えながら、私はやはり既視感を覚えていた。

引っ越してからそれなりに時間を経ているのに、ここは変わらない。

ゆっくりと時間が流れているのではと思うほどに、見覚えのある景色に再会できた。

都会では、季節が移りゆくごとに様変わりする。

去年まであった店が別の店になっていたり、ビルを飾る巨大な看板は、少し見ない間にタレントや商品を変えていて。

それは学校の中でも同じだ。

新商品のお菓子に、流行りのコスメ。

めまぐるしく変わる新しい話題。

昨日まで絶賛されていた何かは、あっという間に別のものに取って代わられ、次第に忘れ去られていく。

その忙しない空気が苦手で、私はずっと都会に馴染めずにいる。