展望台は女将さんが教えてくれた島のオススメスポットだ。

予渼ノ島には、この正式な島の名前とは別にもうひとつの名前がある。

それが【黄泉之島(よみのしま)】であり、死んだ魂が還る国である【黄泉の国】への入り口があるのだと昔から言い伝えられている。

展望台はその謂れの地に近い場所にあるらしく、亡くなった人への想いを抱えて訪れる人が多いのだと女将さんは教えてくれた。

黄泉の国に近い場所から強く想えば、その声が亡くなった相手に届くのだと信じて。

私も、八歳の時に父を亡くした。

優しくて、よく笑う人だった。

ちょっと天然ボケな一面もあり、方向音痴の父が時々迷子になると、母が呆れていたのを思い出し、私はバスの一番後ろの席でひっそりと笑みを零す。

この島で亡くなった父は、迷わず黄泉の国に行けたのだろうか。

父のお墓は母の希望で今住んでいるアパートから近いお寺に移した。

だから、普段はそっちで手を合わせているけれど、せっかく女将さんに教えてもらったし、ヒロのところへ行く前に展望台からも父に話しかけてみようと思ったのだ。

バスは島の中央部を目指し、緩やかな坂を登って。

やがて、予渼ノ島で一番高い位置にある停留所でバスは停まり、そこから歩いて五分もない場所に島を一望できる展望台に到着した。

時間が早いからか、観光シーズン外という時期的なものもあるのか、展望台には私の他に人の気配はない。

私は快晴の冬空の下、朝の澄んだ空気を肺に取り込みながら、三百六十度見渡せる展望台をゆっくり歩く。