「……ヒロ?」


大丈夫? と、声に出そうとして。

けれど、ヒロはハッとした表情を見せたかと思えば、詮索されるのを避けるように「悪い。次の配達あるから」と口にした。


「そ、そうだよね。お仕事中にごめんね」

「いや……。滞在中は、ずっとここに泊まるのか?」


ヒロの視線がまだ私には戻って来ない中「うん」と返すと、彼はようやく目を合わせてくれる。


「そうか。なら、また会いに来る」

「う、うん、ありがとう」


私と同じく、ヒロの中でも、私たちの関係が子供の時の話ではなく、まだ続いているのがわかって。

それを嬉しく思いながら頷くと、彼は「またな」と軽く右手を上げて踵を返した。

ざり、と地面を軽く蹴り鳴らして、ヒロは屋根付きのバイクに跨る。

エンジンをかけて、もう一度だけ私に手を上げて挨拶をして。

私が手を振り返すのを確認すると、すっかり陽が落ちてオレンジと紺が混ざり合う空の下を走り出した。

ふと、冷たい空気の中に冬の匂いを感じる。

ひとりになって、寒さにぶるりと震えた体をそっと抱きしめてから、私は勝手口の扉を静かに閉めた。

ヒロに再会できた喜びを胸に。

そして、明日、またヒロに会えたなら、ナギの居場所を聞いてみようと心に決めながら。