眉を潜めて母さんを見た。


母さんは、よく見てと視線で急かしている。






一体、何なんだよ……。






小さく舌打ちをしながら、俺は再び写真に視線を落とす。









写っているのは、二十代後半くらいの端正な顔立ちの男と、大きな瞳を丸くして、こちらを見つめる小さな男の子。



男が愛おしそうに、男の子を抱きしめて笑っている。





二人の後ろに広がる背景は、春の季節。


若い緑に包まれた山が、連なりそびえている。




春だと分かったのは、緑に混じって桜のピンク色が浮かんでいたからだ。






そして、山々のすその方に微かに見える、消えかかった………虹………?







俺は、瞬きも忘れ写真に見入っていた。





「母さん…これ……」


ようやく声が出たのは、数分後。


顔を上げた俺に、母さんは笑顔で応えた。




「父さんね、いつも肌身離さず、この写真を持ち歩いていたんですって。よくポケットから出しては、眺めていたそうよ」




そう言った母さんは、横たわる親父を穏やかな眼差しで見つめている。




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