「あっ!はーい!」
「邪魔したみたいになっちゃったね、ごめん」
彼は困り顔をもう一度見せ、軽く頭を下げた。

「ううん!私の方から声を掛けたし、大丈夫だよ!」

この数分数秒で、彼…ゆうと仲良くなれてすごく嬉しかった。
まるで、前から友達だったみたい。不思議な感覚。


「君もひらがなで るい なんだよね」


ザワザワと声がする中、一際澄んだ声で響いたように感じた。

「なんで、さっき言いかけたこと分かって…」

最初に話しかけた時も不思議なことを言っていた。「君だよね」って。
なんだろう…なんでなんだろう…

「あ、いや、ほら…それ。」
彼は私の胸元に付いていた名札を指差した。
文化祭当日に告げる名札を委員の子に試しに付けてもらっていたのだ。


「あー、そっか!これね!びっくりしたぁ」
そうだよね、初対面の彼が私の名前のこと知ってるわけがない。

あれ…でも…

「待って、ゆう…くん。みんなの名札もひらがな…」
「じゃあ、僕もうクラスに戻らないと。またね!」

外部から遊びに来てくれた人たちに分かるようにみんなひらがなの名前の名札を付けるようにしていた。

でもその説明は遮られてしまった。
気になることがこの短い間にいくつもあった。
きっと、偶然…だよね。

右手を軽く振って去っていく彼の背中を見ながら私は胸の名札に手を当てた。