その後、結果を伝えるためにオーディション参加者の控え室に向かう途中、俺は監督に聞いた。


俊介「どうして八嶋まどかを推したんですか?」


監督「簡単な話だよ。彼女の演技に惹かれたから。」


俊介「確かに惹かれました。けど、どこがすごいのか分からなくて。」


監督「彼女はどんな役でも“演じられる”。

圧倒的存在感をもつ星野ありさ。
俊介くんは、彼女の演技が上手いと思うか?」


正直言うと大女優と言われるほどの演技力は、ないと思う。


ただ星野ありさの才能は、その存在感だ。


俊介「すごく上手いとは思いませんけど、あの存在感は圧巻です。」


監督「確かに存在感は、目を見張る。
星野ありさという女優が喋らなくともそこにいると感じさせる。

けどそれは言い換えれば、星野ありさでしかない。
星野ありさは、“演じている”とは言い難い。
なにをしても星野ありさだからな。

その点八嶋まどかは、色んな色になれる女優だ。
それも限りなくリアルに近い色になれる。それは相当な演技力がいる。
彼女はカメレオン女優だ。」


監督はあの短い演技の中でそこまで気づいていたんだ。