声をかけられた黒マスクの男は、地面に横たわる相方を見おろして、そこから視線を上げることなく後ずさり始めた。
「悪かったよ……マジで。お前の女だとは知らなかったんだ」
語尾を弱めながら、ぶつぶつと呪文のようにつぶやく。
「わかってねぇなあ。どんな女でも同じだよ、あんたらの汚ぇ手で触んじゃねぇ。 わかったらとっととお家に帰りな」
そう吐き捨てると、中島くんは倒れてるサングラス男の背中を足で突いた。
「おい、意識あんだろ。こんなとこに寝っ転がってちゃ邪魔だ。歩けねぇなら這うか、そこの黒マスクにおんぶでもしてもらって今すぐ消えろ」
そして私のほうを振り向いたかと思えば、腕をつかんで歩き出す。
初めて男子のケンカを目の当たりにして唖然としていたせいか頭がぼんやりとしていて
ふり払うことも「どこ行くの?」と尋ねることもしないまま、ただ手を引かれるままに足を動かすだけ。
3分ほど歩いて中島くんが足を止めたのは、ベンチのある小さな公園の入り口だった。



